「ビフォーアフター写真は医療広告ガイドラインで禁止されている」——そう理解している方は少なくありません。一方で、実際に多くのクリニックサイトには症例写真が掲載されています。どちらが正しいのでしょうか。
結論から言うと、症例写真(ビフォーアフター)は一律禁止ではありません。ただし、掲載するには医療広告ガイドラインが定める条件をすべて満たす必要があり、その条件を欠いた写真は誇大広告などに該当すると判断される可能性が高くなります。
本記事では、「載せてよい場合」と「載せると違反になる場合」の境界線を、根拠とあわせて具体的に整理します。
まず結論:症例写真は「条件付きで掲載可」
医療広告ガイドライン(厚生労働省「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針」)では、症例写真そのものを全面的に禁止しているわけではありません。
掲載が問題となるのは、「治療等の前又は後の写真等」であって、患者等を誤認させるおそれがあるものです。逆に言えば、誤認させない形で必要な情報を添えれば掲載できる、という構造になっています。
このため、症例写真を扱うときの判断は次の2段階で考えると整理しやすくなります。
- 限定解除の4要件を満たしているか(そもそも詳しい情報を提供できる状態か)
- 写真に必要な付記情報が添えられているか(治療内容・費用・リスク・副作用)
両方を満たせば掲載可、どちらかを欠けば違反と判断されるおそれがある、というのが基本的な考え方です。
なぜ症例写真が規制されるのか
医療広告ガイドラインが症例写真を慎重に扱う理由は、写真が「効果の保証」と受け取られやすいためです。
治療の結果は患者の体質・症状・経過によって当然に異なります。それにもかかわらず、術前術後の写真だけを見ると「自分も同じ結果になる」と受け取られやすく、これは誇大広告(事実を誇張し、患者を誤認させる広告)に該当すると判断されるおそれがあります。
医療広告が一般の商品広告より厳しく規制されている背景については、そもそも医療広告ガイドラインとは?で解説しています。
掲載するための条件①:限定解除の4要件
症例写真を掲載する前提として、まず限定解除の4要件を満たす必要があります。要件をかいつまむと次のとおりです。
- 患者等が自ら求めて情報を取得している(ホームページ等で、誘引性の強いバナー等によらず到達している)
- 問い合わせ先(電話番号・メールアドレス等)が明示されている
- 自由診療の場合、通常必要とされる治療内容・費用が明示されている
- 自由診療の場合、治療に伴う主なリスク・副作用が明示されている
症例写真は自由診療メニューで使われることが多いため、③④まで含めて満たすことがほぼ必須になります。
掲載するための条件②:写真に添える付記情報
限定解除を満たしたうえで、症例写真には次の情報を 写真と同じページ(または直前のページ)に、写真と対応づけて 記載することが求められます。
| 付記すべき項目 | 記載内容の例 |
|---|---|
| 治療内容 | 実施した施術の正式名称・回数・期間 |
| 費用 | 当該症例にかかった総額(税込)・別途費用の有無 |
| 主なリスク・副作用 | 腫れ・痛み・ダウンタイム・効果の個人差・後戻りの可能性等 |
| 標準的な経過 | 効果には個人差がある旨の明記 |
ポイントは、「効果には個人差があります」の一文だけでは足りないことです。当該症例について、何をいくらで行い、どのようなリスクがあったのかまで具体的に示して初めて、誤認させない掲載と判断されやすくなります。
❌ 違反になりやすい典型パターン
以下は、症例写真の掲載で違反と判断される可能性が高いパターンです。
パターン1:付記情報がない/不十分
- 写真だけを並べ、治療内容・費用・リスクの記載がない
- 「効果には個人差があります」とだけ添えて、費用やリスクの詳細がない
パターン2:加工・修整した写真
- 明るさ・色味・コントラストを術後だけ補正している
- 撮影角度・照明・メイク・表情を術前後で変えている
- レタッチで腫れやアザを消している
加工・修整した症例写真は、限定解除や付記情報の有無にかかわらず、虚偽広告に該当すると判断される可能性が高い項目です。条件を満たせば載せられる他のケースとは性質が異なり、そもそも掲載できないものとして扱うのが安全です。
パターン3:誤認を誘う見せ方
- 最も効果が出た1症例だけを「標準的な結果」のように提示する
- 「-10kg」「シミ消失」などの効果を写真上に強調表記する
グレーゾーンの整理
トップページ・スライダーへの自動表示
トップページのメインビジュアルやスライダーに症例写真を自動で流す見せ方は、「患者等が自ら求めて到達した情報」とは言いにくく、限定解除が機能しないおそれがあります。症例写真は、患者がクリックして能動的に到達する症例ページ内に置く構成が無難です。
SNSへの投稿
Instagram・X・TikTok等での症例写真・ビフォーアフター動画は、媒体の構造上、限定解除の要件(特に「自ら求めて到達」)を満たしにくいのが実情です。フィードやリールに流れてくる投稿は誘引性が強いと判断されやすく、原則として避けるのが安全です。SNS運用の注意点は歯科医院向けの解説記事でも触れています。
「症例写真」と「体験談」は別物
症例写真は条件付きで掲載できますが、患者の主観に基づく治療体験談は、限定解除をしても掲載できません。これは明確な禁止事項です。写真に患者のコメント(「やってよかった」等)を添えると、症例写真と体験談が一体化し、全体として違反と判断されるおそれがあります。体験談の扱いは患者の体験談・口コミは医療広告違反になる?で詳しく解説しています。
⭕ 適合する掲載例(イメージ)
条件を満たした掲載は、おおむね次のような構成になります。
- 症例ページへ患者がクリックして到達する導線(トップに自動表示しない)
- 写真の直近に、施術名・施術回数・総額(税込)・別途費用を明記
- 主なリスク・副作用・ダウンタイム・効果の個人差を具体的に記載
- 問い合わせ先を明示
- 加工・修整をしていない写真
「写真+必要情報のワンセット」で初めて成立する、と捉えると判断しやすくなります。
実務での進め方
掲載を続ける場合
- 全症例写真について、付記情報(治療内容・費用・リスク)が揃っているか棚卸しする
- 不足しているページに付記情報を追加する
- トップページ・スライダー・一覧サムネイルなど、能動到達でない場所の写真を症例ページ内へ移す
- 加工・修整した写真は差し替えるか取り下げる
判断に迷う場合は一旦取り下げる
付記情報の整備に時間がかかる、または加工の有無が判断できない写真は、整備が完了するまで一時的に非表示にするのが安全です。違反状態のまま公開を続けるより、整えてから再掲載するほうがリスクを抑えられます。
定期点検の重要性
症例写真は、新しい施術メニューの追加やキャンペーンのたびに増えていきます。一度整備しても、新規ページで付記情報が抜けたり、加工済みの写真が紛れ込んだりすることは珍しくありません。医療機関ネットパトロールでも、症例写真は指摘が入りやすい項目の一つです。
かかしAI はURL登録のみで全ページを定期巡回し、症例写真ページの付記情報の不足や、ガイドラインに抵触するおそれのある表現を自動で検出します。担当者の工数をかけずに、更新のたびに生じるリスクを継続的に点検できます。
まとめ
症例写真(ビフォーアフター)の扱いを整理します。
- 一律禁止ではなく「条件付きで掲載可」 — 限定解除4要件+付記情報が前提
- 付記情報は「治療内容・費用・リスク・副作用」まで具体的に — 「個人差があります」だけでは不十分
- 加工・修整した写真は条件を満たしても掲載不可 — 虚偽広告に該当するおそれ
- トップページ・スライダー・SNSは限定解除が機能しにくい — 能動到達の症例ページ内に置く
- 体験談(患者のコメント)は限定解除しても掲載不可 — 写真と一体化させない
医療広告ガイドラインは、症例写真の掲載そのものを否定しているわけではありません。求めているのは、患者が結果を正しく理解できるだけの情報を、写真とともに誠実に提供することです。条件を整えれば、症例写真は患者にとって有益な判断材料になります。