「ある日突然、自院のホームページの表現について 厚生労働省の委託事業者から通知 が届いた」── 同業者からそのような話を聞いたことがある院長・事務長は少なくないかもしれません。

その正体は 「医療機関ネットパトロール」 という、厚労省が平成 29 年度(2017 年度)から続けている監視事業です。本記事では、ネットパトロールの仕組みと最新動向(通報件数の推移、AI 活用、SNS への対象拡大)、そして通知が届いた場合の実務対応について整理します。

医療機関ネットパトロールとは

医療機関ネットパトロールは、厚生労働省が 医業等に係るウェブサイト等の監視体制強化事業 として委託しているもので、医療機関のサイト・SNS・口コミなどに 医療広告ガイドライン 違反がないかを監視・通知する仕組みです。

  • 事業名:医業等に係るウェブサイト等の監視体制強化事業
  • 開始年度:平成 29 年度(2017 年度)
  • 委託先:イーピーエス株式会社(2026 年現在)。過去にデロイトトーマツコンサルティング合同会社等
  • 公式窓口医療機関ネットパトロール
  • 対象:医療機関のサイト・ブログ・SNS・動画・口コミサイト等

通報窓口は一般市民・同業者・元患者などに広く開かれており、医療機関名・所在地・URL・気になる表示の内容を入力すると、受託事業者が違反該当性を審査します。

通報から指導までのフロー

ネットパトロールの典型的なフローは以下の通りです。

  1. 通報受付 — 公式サイトの通報フォーム経由で、一般市民・同業者・元患者から違反疑い情報を受け付け
  2. 受託事業者による審査 — 通報内容と該当ページを精査し、医療広告ガイドラインに照らして違反該当性を判定
  3. 能動監視 — 通報に加え、受託事業者側でも検索・巡回し違反疑い案件を能動的に発見
  4. 改善要請通知 — 違反と判定された場合、医療機関に対して 改善要請の通知 を文書(電子メールまたは郵送)で発出
  5. 改善状況の確認 — 期限内(通常 30 日程度)に改善されたかを再確認
  6. 自治体への通報 — 改善されない場合、医療機関を管轄する 都道府県・保健所 に通報され、行政指導・中止命令へエスカレーション
  7. 行政処分 — 中止命令違反は医療法に基づき 6 ヶ月以下の懲役または 30 万円以下の罰金

ポイントは、最初の通知は「指導」ではなく「改善要請」 という点です。多くのクリニックは通知時点で対応すれば、自治体まで案件が上がることなく終結します。逆に放置すると、自治体への通報を経て行政指導の正式な記録が残ります。

最新動向:通報件数の推移

ネットパトロールの活動量は年々拡大しています。厚労省「医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会」資料によると、近年の通報受付件数は以下の通りです。

  • 令和 3 年度(2021 年度):通報 7,378 件(うち審査対象 775 件、通知発出 約 850 件 ※能動監視含む)
  • 令和 5 年度(2023 年度):4,854 サイト
  • 令和 6 年度(2024 年度):7,052 サイト
  • 令和 7 年度(2025 年度、2 月時点):6,324 サイト

令和 3 年度の数字を見ると、通報 7,378 件のうち 審査対象は約 1 割(775 件) で、能動監視を含めると 約 1,200 件が審査 に至り、約 850 件で通知が発出 されています。「通報されたら必ず通知が来る」わけではありませんが、審査対象になれば 7 割前後で通知 に進んでいる計算です。

最新動向:AI 活用の正式開始

令和 7 年度(2025 年度)以降の大きな変化として、医療機関ネットパトロール事業に AI(人工知能) が正式導入されました。

これまでは「NG ワード("日本一" "100%" "絶対治る" など)」を機械的に検索する仕組みが中心でしたが、AI 導入により 文脈判断 が可能になっています。たとえば「治療を受けてから前向きになりました」のような 間接的な体験談表現 や、「他院ではできない」のような 比較優良広告の言い換え も、AI が文脈から違反候補として抽出するようになっています。

「NG ワードを単純に避ければ大丈夫」という従来の対策は通用しにくくなっており、表現意図・構文・周辺文脈まで含めた点検が必要です。

最新動向:SNS・口コミ・アフィリエイトへの対象拡大

監視対象は 公式サイト・LP に加え、近年は次の媒体にも明確に拡大しています。

  • 医師・院長個人の SNS アカウント(「当院では…」と特定性があり、受診誘引につながる投稿)
  • クリニックがハッシュタグキャンペーン等で関与した患者投稿(実質的な広告と判定される)
  • アフィリエイトサイト(医療機関が費用負担している場合)
  • 記事風広告・タイアップ記事(誘引性が認められる場合)
  • YouTube・TikTok 等の動画コンテンツ

特に 美容医療 は監視重点領域とされており、令和 5 年度(2023 年度)には美容医療関連で 362 サイト・延べ 2,888 箇所 の違反表示が確認されています。美容クリニックの院長・分院マネージャーは、SNS 運用の 投稿前チェック体制 を必須と考えるべき段階にあります。

通知が届いた場合の実務対応

実際に「医療機関ネットパトロール」名義の通知が届いた場合の対応手順を整理します。

1. まず通知の真贋を確認する

公式通知は 厚生労働省委託事業者名義(イーピーエス株式会社等) で送付されます。差出人・連絡先・添付されているガイドライン該当条項を確認し、フィッシングや迷惑メールでないことを確かめてください。不審な場合は 医療機関ネットパトロール公式サイト の連絡先で照会できます。

2. 指摘箇所と該当ガイドライン条項を突き合わせる

通知には 具体的な URL・指摘表現・該当する違反類型(比較優良広告/誇大広告/体験談/限定解除要件不備など)が記載されています。社内・制作会社と共有し、医療広告ガイドラインのどの条項に該当するかを正確に把握します。

3. 期限内に修正し、再確認できる状態にする

通知には通常 30 日程度の対応期限 が記載されています。期限内に修正し、修正完了の旨を受託事業者に返信してください。修正履歴(変更前後の表現、対応日時)を社内に 証跡として保存 しておくことが、後の自治体経由の問い合わせや、再発時の対応工数削減に有効です。

4. 同種の表現を 他ページでも一斉点検 する

指摘されたページだけを直しても、サイト内の他ページや LP、ブログ記事、SNS 投稿に 同じ問題表現が残っている ことが大半です。同種の違反パターンを全ページ横断で点検することが、再通知や行政指導への進展を防ぎます。

5. 自治体から問い合わせが来た場合

改善が確認されないと、所管の 都道府県・保健所 に案件が引き継がれます。この段階では 行政指導の正式な記録 として扱われるため、書面回答が求められます。顧問弁護士または医療広告コンサルタントへの相談を早期に行ってください。

予防的対応:自主点検を仕組み化する

ネットパトロールに通知される前に、自院で違反候補を発見・修正できる体制が理想です。実務的な観点では次の 3 点が有効です。

  • 公開前チェック:新ページ・新 LP・新キャンペーンを公開する前に、ガイドライン該当性をチェックリストで確認
  • 定期巡回点検:既存ページについても、ガイドライン改正(最終改正:令和 8 年 3 月 30 日)や運用解釈の変化に追随して定期的に再点検
  • SNS 投稿の事前承認フロー:医師個人アカウントを含め、医療機関の特定性が出る投稿は公開前に法務・院内チェックを通す

特に 定期巡回点検 は、サイト規模が大きくなるほど手作業では網羅困難です。当社が提供する かかしAI は、登録サイトを AI が自動巡回し、医療広告ガイドラインの違反候補を検出してメール通知するサービスです。手動チェックを補完する 一次スクリーニング として活用いただけます(最終判断は専門家の確認が必要です)。

まとめ

  • 医療機関ネットパトロールは、平成 29 年度から続く厚労省の 公式監視事業 で、年間 5,000〜7,000 件規模の通報を処理している
  • 令和 7 年度から AI による文脈判断 が正式導入され、NG ワード回避だけでは対策にならない
  • 監視対象は SNS・口コミ・アフィリエイトに拡大し、特に 美容医療 が重点領域
  • 通知段階で対応すれば自治体まで上がらず終結するが、放置すると 6 ヶ月以下の懲役または 30 万円以下の罰金 の対象になり得る
  • 通知を待つのではなく、公開前チェック・定期巡回点検・SNS 事前承認 の 3 点を仕組み化することが本筋

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出典・参考資料

※ 本記事は一般的な情報整理を目的としたものであり、個別案件の法的判断は弁護士または医療広告コンサルタント等の専門家にご相談ください。