クリニックの集患でSNS(Instagram・X・LINE・TikTok・YouTube等)の活用が当たり前になりました。一方で、「自院のサイトと同じ感覚で自由診療の料金や症例写真を投稿してよいのか」「詳しい費用やリスクはホームページに書いてあるから、投稿には書かなくてよいのでは」といった点は、意外と整理されていません。
結論から言うと、SNSにも医療広告ガイドラインはそのまま適用されます。厚生労働省は「医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書(第6版)」(令和8年3月)で、SNS・動画の具体的な事例を示しています。本記事では、この事例解説書と 医療広告ガイドライン・同Q&Aに沿って、SNS特有の論点を整理します。
本記事は一般的な整理であり、個別の投稿の適否は医療広告に詳しい弁護士等の専門家にご確認ください。
先に結論
- SNSでは ①プロフィール ②投稿 ③返信 の3つが医療広告の構成要素になる。画像・動画の音声、ハッシュタグ、医療機関や医師を特定できる個人アカウントの発信も対象になり得る。
- 虚偽・誇大・比較優良・体験談などの禁止される広告は、①②③のどれか1つに含まれていれば違反。
- 自由診療の治療内容・費用・主なリスク・副作用は、①②③の中で一体的かつ一覧性をもって示す必要がある。「詳細は当院ホームページで」とリンクを貼るだけでは不十分と明記されている。
- ビフォーアフター写真は、写真の付近に治療内容・費用・主なリスク・副作用を付ける。説明がリンク先にしかないものは違反。
- SNS上の1つの投稿は、単独で1つの広告として扱われる。必要な情報を複数のSNSに分散させるのは不適切。
SNSで医療広告になる範囲
事例解説書は、SNSの医療広告を次の3つの構成で整理しています。
| 構成 | 例 |
|---|---|
| ①プロフィール | アカウント名、自己紹介文、所在地、リンク |
| ②投稿 | テキスト、画像、動画(ストーリーズのように一定期間だけ公開されるものを含む) |
| ③返信 | 自分の投稿への返信(字数制限を補うための続きの投稿など) |
あわせて、次の点も医療広告に当たることに注意が必要とされています。
- 字数制限を補うため、自分の投稿に返信を重ねて一連の投稿として情報提供する場合
- 画像や動画の音声などで情報提供する場合
- 投稿や返信内のハッシュタグ(投稿内容と関係のないハッシュタグで人を集めることは不適切)
- 個人アカウントでも、医療機関・医師等を特定でき(特定性)、受診を促す意図がある(誘引性)場合
「公式アカウントではなく院長の個人アカウントだから対象外」とは限らない点は、特に見落とされやすいところです。
禁止される広告は「どこか1か所」でも違反
虚偽広告・誇大広告・比較優良広告・体験談などの禁止される広告は、プロフィール・投稿・返信のいずれか1つに含まれていれば違反です。事例解説書の例では、次のような表現が問題とされています。
| 表現の例 | 何が問題か |
|---|---|
| 「最先端の痩身治療」「従来の2倍以上の脂肪細胞を破壊」 | 規制に抵触する表現として示されている(誇大広告等) |
| 「副作用もほとんどありません」 | 主なリスク・副作用の情報提供として不十分 |
| 「1回目から効果を実感できます!」 | 通常必要な治療期間・回数が示されていない |
| 「¥10,000~利用可能です!」(最低金額のみ) | 標準的な費用(最低〜最高金額)が示されていない |
施術と関係のないハッシュタグ(例:痩身の投稿に #美容点滴) | 投稿内容と関係のないハッシュタグによる誘引 |
| 患者の感想投稿を引用して「ご利用いただきました」と紹介 | 他者の投稿を引用して自院の体験談を紹介するのも違反 |
最後の例は、リポストや引用で患者の声を紹介する運用がSNSでは日常的に行われているぶん、特に注意が必要です(体験談の詳しい整理はこちら)。
自由診療の費用・リスクは「リンク先に任せる」ではNG
自由診療は原則として広告できない事項ですが、限定解除の要件を満たし、かつ禁止される広告に当たらなければ広告できます。SNSでこの要件を満たすには、次の情報をプロフィール・投稿・返信の中で、一体的かつ一覧性をもって示す必要があります。
- 通常必要とされる治療内容
- 標準的な費用(最低金額だけでなく最高金額まで。別途費用や内訳があればそれも)
- 通常必要とされる治療期間・回数
- 治療の主なリスク・副作用
リンク先での説明は不十分
事例解説書は、治療内容・費用・治療期間や回数、主なリスク・副作用が「自院HP等の別リンク先でないと確認できない」ケースを違反事例として挙げ、「別リンク先での情報提供では不十分」としています。ガイドライン本体も、これらの情報を「リンクを張った先のページへ掲載したり、利点や長所に関する情報と比べて極端に小さな文字で掲載したりといった形式を採用しないこと」としています。
「▼治療内容・費用、リスク・副作用等の詳細は、当院ホームページでご確認ください」という返信を1つ付けるだけの運用は、この基準を満たしません。ホームページへの誘導自体が禁止されているわけではありませんが、必要な情報はSNSの中に書いたうえで、補足として誘導する形にする必要があります。
「主なリスク・副作用」に当たらない書き方
次のような記載は、主なリスク・副作用の情報提供に当たらないとされています。
- 長所の説明と比べて極端に小さな文字での記載
- 対象外となる患者や禁忌事項(「妊娠中・授乳中の方は受けられません」等)
- 施術当日の注意事項(「当日は激しい運動・飲酒はお控えください」等)
治療を受けたことで起こり得る副次的な作用や望ましくない作用を、長所と同じ程度の分量・見やすさで書くことが求められます。
投稿を分けるときの考え方
字数制限のあるSNSでは、1つの投稿で情報を書き切れないことがあります。事例解説書は、返信を重ねたり、固定投稿を使ったりする場合でも、患者が一連の情報をまとめて確認できるよう示すことを求めています。
| 分かりにくい(不適切) | 一体的・一覧性がある(適切) |
|---|---|
| プロフィールに治療名と連絡先だけ。費用やリスクがどの投稿にもない | プロフィールまたは1つの投稿の中に、治療内容・費用・リスクがまとまっている |
| メリットの投稿と、治療内容の投稿と、費用の投稿がバラバラ | プロフィールで「本治療の詳細は1投稿目(固定)をご覧ください」と場所を示し、その投稿に必要な情報がまとまっている |
| 費用はSNS1、治療の流れはSNS2、リスクはSNS3、と複数のSNSに分散 | 同じSNSの中で、患者が容易に必要な情報をたどれる |
また、事例解説書は「SNS上の1つの投稿は、単独で1つの広告として取り扱われる」としています。自由診療を訴求する投稿を単発で出す場合は、その投稿の中で必要な情報が完結しているかを確認するのが安全です。
ビフォーアフター写真は「写真の付近」に説明を
ビフォーアフター写真(術前・術後の写真)は、治療内容・費用・主なリスク・副作用などの詳しい説明を付けた場合に限り掲載できます。事例解説書は、次のケースを違反としています。
- ビフォーアフター写真だけが掲載され、説明が一切ない
- 説明はあるが、治療内容・費用・主なリスク・副作用の説明が不足している
- 説明が自院HP等の別リンク先にしか書かれていない
改善例として示されているのは、写真を載せた投稿や返信の中に、次のような情報を並べる形です。
施術内容:▲▲▲▲を腹部へ3回施術(期間:2カ月)
費用:¥45,000(3回分、税別)
リスク・副作用:熱感、発赤
▼その他、詳細は当院ホームページでご確認ください。
また、ホームページのバナーに説明のないビフォーアフター写真を使い、遷移先の公式SNSにも説明なしで同じ写真を載せている例も、違反事例として挙げられています。ホームページとSNSの両方で、写真ごとに説明が付いているかを確認してください(ビフォーアフター写真の詳しい整理はこちら)。
動画(YouTube・TikTok等)も同じ考え方
動画サイトについて、事例解説書は ①プロフィール ②動画 ③タイトル ④概要欄 の4つを構成要素として整理しています。テロップや音声での説明、プロフィールや概要欄のハッシュタグも対象です。
- 禁止される広告は、①〜④のどこか1か所に含まれていれば違反
- 自由診療の治療内容・費用・主なリスク・副作用は、動画の中、またはプロフィール・タイトル・概要欄との組み合わせで一体的かつ一覧性をもって示す。別リンク先での説明は不十分
- ビフォーアフター写真は、動画内の一連の流れの中で、画像の付近に説明を付ける
事例解説書の例では、動画内の「最先端のホワイトニング技術」「お得なキャンペーン情報」、タイトルの「ホワイトニング専門医の院長が徹底解説!」(認定団体名のない専門医表記)、概要欄の「症例1,000件を超える」「¥20,000~」(最低金額のみ)、「詳細は、当院ホームページでご確認ください」、#最先端 といった箇所が、規制に抵触する表現として示されています。タイトルや概要欄は短い言葉で目を引こうとするぶん、誇大・比較優良の表現が入り込みやすいところです(専門医の表記ルールはこちら)。
広告配信(プッシュ型)の扱い
ガイドラインは、インターネット上のバナー広告や、検索結果にスポンサーとして表示されるリスティング広告は、限定解除の要件①(患者等が自ら求めて入手する情報であること)を満たさないとしています。そのため、これらの広告では広告可能事項の範囲を超えた内容(自由診療の効果の訴求など)は広告できません。
InstagramやXなどの運用型広告(フォローしていない人のタイムラインに配信される広告)について、事例解説書は個別の事例を示していません。ただし、患者が自ら探しに来るのではなく広告として届けられる点はバナー広告と同じ性質のため、同様に考えて、広告のクリエイティブでは広告可能事項の範囲にとどめるのが安全です(この点は当編集部の整理です)。
SNS投稿前のチェックリスト
公開ボタンを押す前に、最低限これを確認してください。
[SNS医療広告セルフチェック]
1. プロフィール・投稿・返信(動画ならタイトル・概要欄・テロップ)に、
「最先端」「No.1」「絶対」などの誇大・比較優良の表現がないか
2. 患者の感想を引用・リポストして紹介していないか
3. 自由診療の治療内容・標準的な費用(最低〜最高)・治療期間と回数・
主なリスク・副作用が、SNSの中に書かれているか(リンク先任せになっていないか)
4. リスク・副作用が、禁忌や注意事項の言い換えや小さな文字になっていないか
5. ビフォーアフター写真の付近に、治療内容・費用・リスク・副作用の説明があるか
6. 必要な情報が複数の投稿・複数のSNSにバラバラに散っていないか
7. 投稿内容と関係のないハッシュタグを付けていないか
8. 専門医の表記に認定団体名が付いているか
まとめ
- SNSではプロフィール・投稿・返信(動画ならプロフィール・動画・タイトル・概要欄)がすべて医療広告の対象
- 禁止される広告は、そのうちどこか1か所にあれば違反
- 自由診療の費用・リスクは、SNSの中で一体的かつ一覧性をもって示す。「詳細はホームページで」のリンクだけでは不十分
- ビフォーアフター写真は写真の付近に説明を付ける
- 患者の感想の引用・リポストも体験談として違反になり得る
SNSの投稿は数が多く、担当者が複数いることも多いため、ホームページ以上に表現のばらつきが出やすい媒体です。投稿前のセルフチェックに加えて、グレーゾーンの判断は医療広告に詳しい専門家にご相談ください。